新旧アニメの主題歌や挿入歌、人気のアニソンやアニメ・サウンドトラックなどの作品をアナログレコードで一斉発売!
レコードコレクションはナント7000枚以上!レコードマニアでもある人気声優の櫻井孝宏さんと、歌謡曲やゲーム音楽、アニメ・特撮の7インチレコードをレアグルーヴ解釈でプレイするDJフクタケさんのお二方をお招きして、アニソン on VINYL試聴会を開催しました。 アニソン on VINYLでリリースされるレコードを実際に聴きながらのトークは、同い年という事もあり大盛り上がり! アナログレコード、そしてアニソンに精通するお二人ならではの対談をお楽しみ下さい。
取材・文:松原“マッさん”弘一良(MOBSPROOF)
撮影:豊島望
取材協力:渋谷クラブクアトロ https://www.club-quattro.com/shibuya/
QUATTRO LABO https://quattrolabo.com
ーお二人は年代的に近いということで、似たようなアニソン体験をしてきたのかなと思ったりするのですが
フクタケ:二人とも同じ年74年生まれです。あと、住んでいた地域とかで差がありますよね。
櫻井:僕は愛知です。
フクタケ:僕は富山なので。
ー当時、お住まいの地域でアニメのレコードは手に入りやすかったですか?
櫻井:繁華街にあるレコード屋に行ってました。でも、レコードというよりカセットで…。
フクタケ:僕もカセットで聴く方が多かった。レコード盤にこだわって聴くようになったのは、もう少し後だったような気がしますね。
櫻井:父がジャズを聴く人なので、結構立派な家具調のプレイヤーが家にありました。でも、アニメのレコードは大人になってからの後追いです。子供の頃は、テレビの音をカセットテープに録音して聴いてました。だから、「あるある」ですけど、レコードを聴いてこの歌詞は1番じゃなく2番だったんだなとか。
フクタケ:そうそうテレビ放送では2番(の歌詞)が使用されるケースもあって、『ときめきトゥナイト』とかそうですよね。レコードで聴いたら、「あれ? 知らない歌詞だ」って。
櫻井:そういった世代的「あるある」はあるんですけど、レコードで聴くようになったのは上京してからですね。
フクタケ:世代的に90年代にアナログ盤(レコード)人気が盛り返した時が二十歳前後で。自分なりに音楽を掘り下げていく頃に、ちょうどアナログ盤に触れやすい環境ではありました。
櫻井:そうですね。私も渋谷系(*注1)にハマって。渋谷系のレコードと並行してアニメの方も再燃して買うようになった感じでした。二つのジャンルに何らかの親和性を見出してました。
フクタケ:当時は音楽ファンが「アニソン」という括りで、音楽ジャンルとして掘り下げているケースはまだ少数派だったように思います。アニメファンの人でコレクションしている人はいましたけど。サンプラー(*注2)の普及によるサンプリング・カルチャー以降…当時だと映画のサントラを渋谷系のアーティストがサンプリング(*注3)していたり。そういった聴き方が前提としてあって、改めて「アニソン」を聴いたらかっこいいじゃん、いい曲多いじゃんっていう再発見があった。自分たちの世代的にはそういったきっかけが多かったような気がします。例えばスチャダラパーさんの曲のトラックで『新オバケのQ太郎』をサンプリングしていて、「アニソン」をレアグルーヴ(*注4)として聴くのもアリなんだと。発見というか、そういったモノの見方があるっていうのは自分の中で重要だった。日常にあって、なんとなく聴いていた「アニソン」が実はとんでもないレアグルーヴの宝庫だったみたいなことは子供の時には気づかない。音楽的にどの位置にあるとか分析して聴いてもいなかったですから。
櫻井:そうですね、子供の頃はジャンルとしては聴いてなかったです。レアグルーヴって言葉は結構重要なんですね。
フクタケ:「レアグルーヴ」はひとつのキーワードだと思うんです。聴いてたらテンション上がるなとか、つい体が動いちゃうなってぼんやり感じていたものが、音楽体験と知識が付いてくることで、「これってソウルなんだ、ファンクなんだ、あるいはソフトロックなんだ」って改めて音楽ジャンルとして理解できて再発見のきっかけになる。
ー今回のリイシュー(*注5)はバラエティに富んでいますが、中でも注目は?
櫻井:『きまぐれオレンジ☆ロード』の一連の作品群は…。今、中古市場じゃ異常に高騰しているんですよね? 『オレンジ☆ロード』は『(週刊少年)ジャンプ』本誌で読んで、アニメも観ていたリアルタイム世代でした。曲もアーバンな感じだなと。
フクタケ:80年代の後半の音楽というか、シティポップというか、アーバンな音楽の見本市ですね。当時LPでリリースされていたものが一気にリイシューされるのもすごいなぁ、と。気になるのを聴いてみましょうか? 放送後期の主題歌だと「鏡の中のアクトレス」もいいんですけど、僕は「ダンス・イン・ザ・メモリー」派なんです(笑)。
櫻井:僕も「ダンス・イン・ザ・メモリー」派なんですよ(笑)!
フクタケ:じゃ、聴きますか!
(曲が流れる)
櫻井:これがアニメのエンディングテーマっていうのもなかなかですよね。大人っぽくて。当時は歌詞の意味は読み解けていなかったですけど。フィーリングでなんとなく解釈はできるんですけど正解がよく分からない。
フクタケ:リアルタイムではそこまで味わい尽くせていなかったかなと思いますね。サウンドも歌詞も当時のターゲットの中学生ぐらいからすると、ちょっと背伸びした感があります。深い言葉の裏側のダブルミーニングに後から気づいたり。当時も雰囲気は感じ取れてはいるんだけど。
櫻井:ちょっとドキドキはするんですけど…。
フクタケ:大人になって答え合わせというか、こういうことだったのかっていうのが分かって面白い。
櫻井:この曲は今聴くとシティポップになるのかな?
フクタケ:シティポップ的なところもあるし、ビートはユーロビート系で当時のディスコ的なテイストもある。ポップスとダンス・ミュージックのちょうど中間のいいとこ取りをしている感じなんですよね。今のアニソンを聴き慣れている人からすると、ちょっと異質なものに聴こえるかもしれないですね。しかし…今回の『オレンジ☆ロード』関連作はこだわりがすごい。LPの帯から付属物まですごく高精度に完全再現されていて、ここまでやるのかという。
櫻井:東洋化成さんに熱烈なファンがいたんですか(笑)?
ーしかもカラーヴァイナル(レコード)です。
フクタケ:それぞれレコード盤の色が違っていて、当時のオリジナル盤を持ってるから(買わなくて)いいよなんていうのを許さない仕様。気合が伝わってくる感じがすごいですね。
櫻井:「アニソン」を浸透させるラインナップの中に『オレンジ☆ロード』が入っているのはすごく嬉しいです。
フクタケ:作品として興味はあっても、まだ触れたことがない若い世代の人たちもこのタイミングでちょっと観てみようかなとか、聴いてみようかなというきっかけになると思うんです。自分たちも映画のサントラから入って、その映画本編にたどり着くということがあったじゃないですか。手に取らせるだけの強さがモノにある。
櫻井:『あの日にかえりたい』はファンにとってトラウマというか。
フクタケ:そうですね、ストーリー的に賛否両論あった作品ですけど、改めて聴いてみたら音楽が素晴らしい。劇場版ということもあって、劇伴(*注6)はテレビと同じ鷺巣詩郎さんですけど、劇場のスクリーンサイズに合ったリッチな音になっている。鷺巣さんの劇伴作家としての本領がすごく出ていて、それこそシティポップ的な要素もフュージョン的な要素も入っていて、引き出しの多さがこの作品には分かりやすく出ています。後に手掛けられる『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に繋がるサウンドですね。
櫻井:それに、このピンクの発色はすごいですね。お菓子みたいな…これは持っていたいです。
フクタケ:CDとかサブスクでは味わえない迫力がありますね。
(「あの空を抱きしめて」が流れる)
櫻井:「アニソン」って、30年とか40年前に聴いたものでも画と共に憶えていることが多くて、いつまでも忘れないですよね。
フクタケ:で、画を観ると曲が流れちゃう。
櫻井:脳内で再生される感じですね。その時代毎の流行りやスタイルはありますが、70年代や80年代っていうのは、そういったことがより濃厚だったような気がします。
フクタケ:そうなんですよね。80年代にアニメが子供向けのものからより幅広い層にターゲットを広げていったことで、作り手側もちょっと意識や作り方が変わっていった感じがするんです。
櫻井:作り手も子供扱いしてないですもんね。それが素敵だなって。
ー大人向けという意味では、今回リリースされる『ルパン三世』も近い感じがします。
櫻井:そうですね! 『ルパン』の音楽は発明ですよ! このジャケットも無茶苦茶おしゃれで、「ザ・モンキー・パンチ!」って感じでかっこいい。飾りたくなります。
フクタケ:このLPサイズで絵が立つっていうのは、モンキー・パンチ先生のアートの力ですね。この作品は大野雄二さんの楽曲をクラブミュージック系のアーティスト方がカバーやREMIXしています。
ーしかも、このアルバムは重量盤で。
フクタケ:重量盤っていったら、完全に大人のガチなリスナー向けってことですよね。音も子供向けのものにない要素…メロウな感じ、やるせない感じや寂しい、切ない感じとかを表現していて。
櫻井:音楽として私が意識しだしたのが『ルパン』とゴダイゴの『銀河鉄道999』。初めて憶えた英語の歌詞は「The Galaxy Express 999~」で(笑)。
フクタケ:やっぱり、憶えて歌いたくなる要素があるんですよね。だから「アニソン」の力ってすごいなって思うんです。当時の子供に生活上はその英語、必要ないじゃないですか。でも、好きだからこそ、ちゃんと歌いたくってしょうがない衝動が湧くんですよね。
櫻井:オープニングの歌詞を一般公募で募ったんですよね(注:結局、まともな歌詞が集まらず、鴇田一枝の歌詞を原案とし、作詞家・千家和也に補作を依頼して完成に至った)。
フクタケ:ティーンのアニメファンの声が採用されるようになってきたのがその頃(70年代後半)ぐらいからですかね。ある程度の規模の若者向けアニメ市場が形成されてきて、関連レコードも盛んに作られるようになった。ネットもない頃に再放送をして欲しいとか、レコード化して欲しいとか。あるいは劇場で観たいとかっていう署名を何万人も集めたりという当時のファンのパワーはすごいですよね。そういう熱量を感じ取って、メーカーの人がそれに応えうるクオリティのものを作って。それが70年代、80年代のアニメの曲の豊かさに影響を与えている部分はあるんじゃないですかね。
ーシングルに話を移すと、『キテレツ大百科』の「お嫁さんになってあげないゾ」が、カップリング曲がオリジナル盤と違う独自企画でリリースされます。
フクタケ:この曲はベースの音がしっかりよく出ているのがいいですね、モータウン・ビート感というか。
櫻井:歌や歌詞はポップで可愛い感じですけど、曲はしっかりしていて。
フクタケ:いわゆる歌謡曲のようにヒットさせないといけないというのとはまた違う力学で作られている部分もあっていて、アレンジなど今聴いてもオオッって思う新しい試みを忍ばせたり実験性もありますよね。
櫻井:それが、「アニソン」っていうジャンルになっていったんですかね。
フクタケ:なかなか括りにくいけど、その頃の「アニソン」に感じている歌謡曲と違う「アニソン」っぽさの要素っていうのはそこにもある気がしますね。(「お嫁さんになってあげないゾ」の間奏のピアノソロが流れたタイミングで)間奏はスウィンギンな感じで!
櫻井:ピアノをやっている僕の知り合いも言ってました、ここは!
フクタケ:聴きどころなんですよね。でも、テレビサイズだと分からないんです。テレビで聴いた印象をいい意味で裏切ってくれる新しい発見が盤にはある。だから、今回のリイシューは良い企画だなと。
ー実験性という点では、今回リイシューの中での久石譲作品も聴き逃せないかと。
フクタケ:はい。個人的には『かぐや姫の物語』を推したいなと。久石さんの楽曲って、海外のアンビエント(注:環境音楽のこと)系のリスナーからの評価も高いみたいで、海外でもリイシューされてるんです。
櫻井:とても日本的な…聴いていてちょっと懐かしい気分に浸れるような…。
フクタケ:旋律は素朴さがあり、でも、根っこは力強い。作家の底力っていうのを感じますね。『かぐや姫の物語』はサントラ作家としての久石さんの真骨頂で、正に集大成的なところがあり、劇伴としても完成度が高くて作品として非常に聴き応えがあります。
ー本作はCDのみのリリースだったものを、今回2枚組でアナログ化していて、片面エッチングというのも特徴ですね。
フクタケ:こういう遊びも良いですね。『かぐや姫の物語』は音楽的にはかなり注目すべき作品なんじゃないかと思います。
櫻井:宮崎(駿)さんっていう感じではなく、高畑(勲)さんらしいですよね。
フクタケ:派手さや過剰なケレン味はないんだけども、すごく味わいがあるんですよね。次は何を聴きます?
櫻井:このボックス(「スタジオジブリ 7インチ BOX」)は?
(「君をのせて」をかける)
櫻井:やっぱり、これですね!
フクタケ:これはオールタイムベスト感ありますね! 井上あずみさんの声が品があるというか、ノーブルな感じがジブリの雰囲気に合ってますね。
櫻井:劇伴から歌に乗っかっていく流れは鳥肌モノ。画を思い出させるんです。
フクタケ:テレビの放送でも提供バック(番組スポンサー名のテロップ表示パート)の時に流れたりして、刷り込み加減がすごいんですよね。僕は個人的には「風の谷のナウシカ」。劇中では使用されてない(シンボル・テーマソング)んですけど(笑)。
(「風の谷のナウシカ」のイントロが流れる)
二人:もう良い! イントロで良いですね! 掴まれます!
櫻井:これもオールタイムベストですね!
フクタケ:安田成美さんの歌は手垢のついていないイノセント感が魅力ですね。譜面通りの正確さを求めると、この良さが逆に出ないというか。
櫻井:バーとかだとこの曲をみんなで歌ってますから(笑)
フクタケ:ハハハ。そうそう、みんな口にはしたくなりますよね。
ー最後にアナログ盤の魅力というのは?
フクタケ:アナログはフィジカルメディアで、実際ジャケットに触れて、中のインナーを見て、大事にターンテーブルに置いてっていう一連の動きの中にもすでに楽しさがありますね。
櫻井:そうですね。いくつもの手順を重ねないと聴けない。それが楽しいです。今は当たり前になっちゃってますけど、まだレコードを扱うのにおぼつかない頃はドキドキしながら、まるで赤ちゃんをあやすように接してました。良いところはいくらでもあって、物としての価値があるから、コレクトのし甲斐があります。あと、大音量で聴いた時こそアナログの良さが分かる。
フクタケ:そう、音圧を耳だけじゃなく身体で浴びた時ね!
櫻井:空気の振動なんだっていう。耳もそうですけど、やっぱりハートに響きます。
フクタケ:正にそれ! さっきかけた『ルパン』の盤に若干キズがあったじゃないですか。そういうのもまた味で、傷もそのレコードだけでしか聴けない音になっていて。逆に自分だけのものと感じられるっていうか。触れるほどに、愛着の湧くメディアですね。
櫻井:そこにストーリーが生まれますよね。
フクタケ:そういったことを、若い世代の人たちにも楽しんでいただければ。今回のリイシューはいろんな国の人や世代の人が手に取るきっかけになりそうなラインナップですし。
櫻井:マニアックではなく堂々たるラインナップで。
フクタケ:入り口としてお勧めできるラインナップが揃っていると思います!
注1:90年代に渋谷を中心に盛り上がった音楽ジャンル。60〜70年代の楽曲の引用が多いのが特徴。
注2:音を記録し、ピッチなどを変化させて再生できる機材のこと。
注3:楽曲の一部を流用して新たな曲として再構築すること。
注4:ソウル、ファンク、ジャズなどで発売当時は正当な評価を得なかったが、後年のDJカルチャーの価値観で発掘・評価を得たダンサブルな音楽、またはそのカルチャー。
注5:再発のこと。
注6:アニメや映画などで流れる伴奏音楽のこと。サウンドトラック。
■プロフィール
【櫻井孝宏 さくらいたかひろ】 愛知県出身。インテンション所属。1996年に声優デビュー。 以降、アニメを中心に、ゲーム、吹き替え、ナレーション、ラジオなどに出演。 主な出演作は、TVアニメ『呪術廻戦』(夏油傑役)、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(アバン役)、『鬼滅の刃』(冨岡義勇役)、『おそ松さん』(松野おそ松役)。ゲーム『FINAL FANTASY VII REMAKE』(クラウド・ストライフ役) 、映画『TENET テネット』(ニール)、海外ドラマ『梨泰院クラス』(パク・セロイ)ほか。 ラジオ番組『P.S. 元気です。孝宏』(文化放送 超 !A&G+)、『こむちゃっとカウントダウン』(文化放送)にレギュラー出演中。
【DJフクタケ】 1990年代よりDJとして歌謡曲、アニソン等をアナログ7インチ盤にこだわりクラブ・ミュージック・マナーでプレイするスタイルで活動。2014年から和モノ・歌謡曲公式MIX CD『ヤバ歌謡』シリーズをユニバーサル・ミュージックよりメジャーリリース。2017年3月には自ら企画・選曲・監修を務めた玩具・ファンシーキャラ・ビデオゲーム関連のタイアップソングのコンピレーションCD『トイキャラポップ・コレクション』Vol.1~3をウルトラ・ヴァイヴ/ソリッド・レコードより発表。現在は、東京を拠点に各地でJ-POP・和モノ系や80’s~90’s洋楽系パーティを中心にプレイ。ライターとして書籍「ゲーム音楽ディスクガイド」シリーズ、「アニメディスクガイド80’s」への寄稿、雑誌「レコード・コレクターズ」他で連載も手がけるほか、地上波ラジオ、配信番組DOMMUNEへの出演も多数。
DJフクタケ Universal Music Japan 公式ページ
http://www.universal-music.co.jp/dj-fukutake
DJフクタケ Twitter
https://twitter.com/DJ_fukutake
■リリース情報
【アニメディスクガイド80’s】
アイドル、ロックバンドの起用、イメージアルバムや漫画家、声優によるレコードなど、混沌と隆盛を極めた80年代アニメ関連ヴァイナル200タイトル以上を紹介するディスクガイド。
タイトル:アニメディスクガイド80’s レコード針の音が聴こえる
お問い合わせ窓口
info-animesongs@onvinyl.jp